中小企業の事業再生等に関するガイドライン
法律用語集

中小企業の事業再生等に関するガイドライン

読み方
ちゅうしょうきぎょうのじぎょうさいせいとうにかんするがいどらいん
業務分野

1 「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」とは

2021年6月に公表された「成長戦略実行計画」を受け、一般社団法人全国銀行協会を事務局とする「中小企業の事業再生等に関する研究会」が取りまとめた、中小企業者の事業再生・事業廃業に係る総合的な考え方や具体的な手続等に関するガイドライン。

中小企業者の「平時」や「有事」の各段階において、中小企業者・金融機関それぞれが果たすべき役割を明確化し、事業再生等に関する基本的な考え方を示すとともに、より迅速に中小企業者が事業再生等に取り組めるよう、新たな準則型私的整理手続である「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」を定めたものである。

2 平時における中小企業者と金融機関の対応

「平時」においては、①収益力の向上と財務基盤の強化、②適時適切な情報開示等による経営の透明化確保、③法人と経営者の資産等の分別管理など債務者である中小企業側の対応が求められ、他方、①経営課題の把握・分析等、②最適なソリューションの提案、③中小企業者に対する誠実な対応など債権者である金融機関側への対応も求められている。

3 有事における中小企業者と金融機関の対応

「有事」においては、①経営状況と財務状況の適時適切な開示等、②本源的な収益力の回復に向けた取組み、③事業再生計画の策定などが中小企業側に求められ、他方、①事業再生計画の策定支援、②専門家を活用した支援、有事における段階的対応などが金融機関に求められ、それぞれ④有事における段階的な対応(㋑返済に関する条件緩和、㋺債務免除、㋩スポンサー支援、㋥事業廃止等)が求められている。

4 中小企業の事業再生等のための私的整理手続

準則型私的整理手続の一つとして、経営困難な状況にある中小企業者である債務者を対象に、破産手続、民事再生手続、会社更生手続又は特別清算手続等の法的整理手続によらずに、債務者である中小企業者と債権者である金融機関等の間の合意に基づき、債務について返済猶予、債務減免等を受けることにより、当該中小企業者の円滑な事業再生や廃業を行うことを目的とする私的整理手続について定めている。

本手続は、中小企業が私的整理を公正かつ迅速に行うための準則であり、法的拘束力はないものの、中小企業者、金融機関等及びその他利害関係人よって、自発的に尊重され遵守されることが期待されている。

5 再生型私的整理手続

本手続の大きな柱の一つである「再生型私的整理手続」は、自助努力のみによる事業再生が困難な中小事業者で、経営情報等を適時適切かつ誠実に開示しており、反社会的勢力又はそれと関係のある者ではなく、そのおそれもない中小企業者が対象となる。

中小企業は、主要債権者の同意に基づいて第三者支援専門家を選定し、5年以内の実質的債務超過の解消や経営者退任を必須としない、中小企業の実態に即した事業再生計画案を作成する。具体的には、第三者支援専門家から事業再生計画案に対する調査報告書の作成を受け、全ての対象債権者と債権者会議を開催。債権者が事業再生計画案に反対する場合は、反対理由の説明を必要とする。保証債務については、「経営者保証に関するガイドライン」を活用し、一体整理に努める。

また、成立した事業再生計画をもとに達成状況のモニタリングを行い、この結果、計画と実績の乖離が大きければ計画の変更、法的整理や廃業を検討することを明記した。

6 廃業型私的整理手続

本手続のもう一つの柱である「廃業型私的整理手続」は、主要債権者が事業の継続可能性が見込まれないと判断し、かつ中小企業者からも廃業の申出があった場合、対象債権者間の平等をはかり、清算価値と比較した場合の経済合理性、地域経済への影響を考慮しつつ廃業に向かう手続である。こちらは弁済計画案の立案、作成という点で「再生型私的整理手続」とは内容が異なるが、そこから調査報告、弁済計画の成立、定期的なモニタリングなどの基本的な流れは同じである。ただし、「再生型私的整理手続」の遂行途中で移行することも可能であり、「再生型私的整理手続」の検討時において関与した第三者支援専門家の支援を継続して得られる点は特徴的である。

7 従来の私的整理ガイドラインとの違い

従来の私的整理ガイドラインとの違いとしては①第三者支援専門家の関与、②中小企業の実態に即した基準への変更(債務超過解消を3年以内から5年以内へ変更、経営者退任を必須としないなど)、③計画案に反対する債権者に対して誠実な説明を求めることの明記、が主に挙げられる。

(弁護士 森田豪丈 /2022年4月6日更新)

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