中国における植物新品種の保護
法律用語集

中国における植物新品種の保護

読み方
ちゅうごくにおけるしょくぶつしんひんしゅのほご
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中国における植物新品種の保護

1.紅まどんな、シャインマスカット等の海外流出

近年、日本で開発された高付加価値果物の海外流出が大きな社会問題となっています。代表的な例として、愛媛県で開発された「紅まどんな」(品種名:愛媛果試第28号)や、岡山県で開発された「シャインマスカット」が挙げられます。これらの品種は、日本国内では高級果実として高いブランド価値を有していますが、中国や韓国などで、日本由来とみられる同一又は類似の品種が広く栽培され、市場に流通しています。
果樹は一般に種子ではなく、穂木や苗木を利用した接ぎ木や挿し木によって増殖されます。そのため、一度穂木や苗木が海外へ持ち出されると、現地で同じ品種を大量に増殖することが可能となります。紅まどんな、シャインマスカットが海外に流出した経緯は不明ですが、日本国内で正規に流通した苗木等が何らかの形で海外へ持ち出され、その後現地で増殖・栽培され、大規模な産業化に至った可能性が考えられます。

2.日本の種苗の権利は外国では保護されないのか

日本では、植物新品種は種苗法によって保護されています。品種登録を受けた育成者は、登録品種の種苗や収穫物について、生産、譲渡、輸出、輸入等を独占的に行うことができる「育成者権」を有します。しかし、この権利は日本国内においてのみ効力を有するものであり、中国その他の外国に当然に及ぶものではありません。
これは種苗の育成者権に限った話ではなく、特許権や商標権と同様に「属地主義」と呼ばれる知的財産法の基本原則によるものです。したがって、日本で紅まどんなやシャインマスカットの品種登録を受けていても、中国で別途権利を取得していなければ、中国国内における栽培や販売を差し止めることは原則としてできません。
もっとも、シャインマスカット等の海外流出問題を受けて、日本では2020年に種苗法が改正されました。改正法では、育成者権者が登録品種について輸出先国や国内の栽培地域を指定できる制度が導入されました。これにより、権利者の意思に反して苗木等が海外へ持ち出されることを抑止しやすくなりました。さらに、2026年に政府が国会に提出した種苗法改正案によれば、品種登録出願中の品種についても輸出差止請求を認める制度の創設などが検討されています。
もっとも、これらの制度はあくまで日本国内からの流出防止を目的とするものであり、既に海外で栽培されている品種について直接権利行使を可能にするものではありません。

3.植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)

植物新品種の保護については、国際的な枠組みとして「植物の新品種の保護に関する国際条約」(以下「UPOV条約」)が存在します。日本も中国も締約国であり、現在は1991年に改正された条約が適用されています。
UPOV条約は、締約国に対し、新規性、区別性、均一性及び安定性を備えた新品種について保護制度を整備することを求めています。また、育成者権者に対して、保護される品種の種苗の生産、販売、輸出入等について排他的権利を認めています。
UPOV条約は国際的な保護の枠組みを定めるものであり、自動的に全締約国で権利が発生するわけではないため、実際に保護を受けるためには、各国において出願・登録手続を行う必要があります。育成者は、育成者権の最初の出願をする締約国を自由に選択することができ、ある締約国で出願した後、12か月以内に他の締約国で出願する場合には、最初の出願日を基準とする優先権が認められています。

4.中国で新品種を登録していれば保護されるか

中国では、「中華人民共和国種子法」及び「中華人民共和国植物新品種保護条例」に基づいて植物新品種権(以下「品種権」)が保護されています。これらの法令に基づき、「品種権者」に対して、生産、繁殖、販売、輸出入等について排他的な権利が認められています。また、登録品種そのものだけでなく、登録品種と明確に区別できない品種や、実質的派生品種についても保護の対象となっています。
中国で登録済みの品種について第三者が無断で増殖や販売を行った場合には、差止請求や損害賠償請求、行政機関による処罰等を求めることができます。

5.著名商標のように、著名な品種は登録していなくても保護されるといったルールはないのか

商標法の分野では、著名商標に対する特別な保護制度が存在します。中国法にも「馳名商標」と呼ばれる著名商標保護制度があります。しかし、植物新品種については、著名であることを理由として未登録のまま保護される制度は基本的に存在しません。
例えば、シャインマスカットや紅まどんなが日本国内で極めて有名な品種であったとしても、中国において品種登録が行われていなければ、中国国内で品種権を主張することは原則としてできません。この点は商標権との大きな違いであり、品種保護において海外出願が重要である理由でもあります。

6.商標侵害、不正競争行為に対する保護

品種権以外の保護手段としては、商標権や不正競争防止法による保護も考えられます。例えば、中国で商標登録された商標を無断使用して果物の販売が行われている場合には、商標権侵害を主張できる可能性があります。そのため、模倣のおそれがある品種については、日本語名称だけでなく、中国語名称やその類似名称も含めて予防的に商標登録をしておくことも考えられます(なお、中国では、紅まどんなに酷似する果物は「紅公主(紅プリンセス)」、シャインマスカットに酷似する果物は「香印翡翠」(「香印」は「シャイン」に近い発音)などの名称で販売されています)。もっとも、中国では正当な理由なく3年間使用されていない登録商標について取消しを請求される可能性があるため、権利取得後の管理にも注意が必要です。
また、中国で商標登録を行っていない場合であっても、第三者がオリジナルの商品名称やブランド表示と類似する名称等を使用し、消費者に混同を生じさせるような場合には、中国の反不正当競争法に基づき差止め等を求める余地があります。しかし、そのためには当該名称等が中国市場において「一定の影響力」を有していることを立証する必要があり、日本国内で著名であっても、中国での販売実績や知名度が乏しい場合には、その立証は容易ではありません。さらに、中国では中国語表記となり、日本の品種名とは(発音や意味などにより関連性を匂わせつつも)必ずしも一致しないことから、不正競争行為による保護には一定の限界があり、やはり商標権や品種権の登録による事前の権利確保が重要となります。

7.権利侵害はどのように証明するのか

中国で品種登録がなされている場合、侵害立証において重要な役割を果たすのがDNA鑑定を含む分子検査です。
果樹は一般に接ぎ木や挿し木によって増殖されるため、無断増殖された個体は元の品種と遺伝的にほぼ同一のクローンとなります。そのため、中国国内で発見された被疑侵害品種について葉や枝、果実等のサンプルを採取し、登録品種との比較を行うことで、両者が同一品種又は極めて近縁の品種であることを高い精度で示すことが可能です。
また、中国の「植物新品種保護条例」では、実質的派生品種の認定に際し、分子検査や表現型試験を主要な判断根拠とすることが明記されており、DNA鑑定を含む遺伝子レベルの分析は、中国における品種権侵害や実質的派生品種の認定において極めて重要な証拠となります(もとより、権利侵害というためには、前提として主張する側が中国において有効な品種権を取得していることが必要です)。

8.中国における新品種登録の要件・手続き

中国において植物新品種権を取得するためには、新規性、区別性、均一性及び安定性という要件を満たす必要があります。これはUPOV条約に基づく国際的な基準と基本的に同じです。
出願後は、方式審査に加え、DUS試験と呼ばれる区別性・均一性・安定性試験が実施されます。果樹の場合には、穂木や苗木などの繁殖材料を提出し、実際に栽培試験が行われることもあります。そのため、権利取得まで数年を要することも珍しくありません。
しかし、一旦権利を取得すれば、中国国内において強力な排他的権利を行使することができます。
近年の紅まどんなやシャインマスカットをめぐる議論は、植物新品種の価値が国内市場にとどまらず、グローバルな市場においても大きくなっていることを示しています。また、中国をはじめとする主要国において植物新品種保護制度が整備・強化されてきたことにより、海外における権利取得の実務的重要性も従来以上に高まっています。
このような状況を踏まえると、日本の自治体、研究機関、農業法人等にとっては、新品種の開発段階から国内での保護だけでなく、中国その他の主要市場における保護戦略についても併せて検討することが重要になりつつあるといえるでしょう。

(弁護士 住田尚之 /2026年6月25日更新)

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