判例紹介

いわゆる「サブリース」訴訟が不動産流動化に与える影響について

弁護士 岡内真哉

1. 背景事情

一般的にサブリース訴訟と呼ばれている事件の事案は、土地所有者(オーナー)が所有土地上にオフィスビル等の賃貸物件を建設し、これを一括して不動産会社等に転貸自由の約定で賃貸する契約である。本来マスターリース契約と呼ばれるべきものであるが、何故か『サブリース』との呼称が定着しているので、ここでもマスターリース契約を「サブリース」と呼ぶ。建物の建設や資金の調達について賃借人側が大きな役割を果たすケースが多く、また賃料に関する条項に、一定期間毎に一定割合(例:2年毎に5%)増額する旨のいわゆる賃料自働増額条項が規定され、かつ「賃料保証」なる用語が使用されていたこと多かったことが、紛争を複雑化させている。

2. 賃借人の主張

(1)契約書の記載内容
サブリースの契約書には、「建物賃貸借契約書」なる表題のもとで、建物を賃借すること、その対価として賃料を支払うこと、建物の滅失毀損によって賃貸借契約が終了すること(すなわち、危険負担の債務者主義)、大規模修繕は賃貸人の負担であることなどが規定されている。転貸自由となっている点以外は、オフィスビル等に使用されているごく一般的な賃貸借契約書が使用されている。
(2)賃借人側の主張する法的性格
そこで賃借人側は、サブリース契約は建物賃貸借契約であって、借地借家法32条(賃料増減額請求権)が適用される、と主張している。理由は、以下の通り。1.他人の所有物を一定期間使用し、これに対する対価を支払う契約は賃貸借契約そのものである。2.「使用」の方法として、賃貸人の承諾を得て全て転貸することも自由である。
(3)賃料自動増額条項の存在について
賃料自動増額条項の存在は、賃借人の主張の妨げとなるか。賃料自働増額条項は、サブリースに限らず、オフィスビルでは極めて一般的に見られる(現在でも見られる)条項であり、従来の裁判例によれば「同条項の計算式が合理的であり、かつ計算式に従って得られた賃料が相当である限り」有効であるとされている。すなわち、賃料自働増額条項に従って計算された額が賃料相場等に比して高額または低額に過ぎるときは、借地借家法32条の「不相当となったとき」に該当し、賃貸人も賃借人も、賃料増減額請求ができる。従って、賃料自動増額条項が存在していても賃貸借契約たる法的性質を害することはないから、サブリース契約にも借地借家法32条が適用される、とするのが賃借人側の理論構成である。

3. オーナー側の主張

これに対してオーナー側は、サブリースは賃貸借契約に近似していても、事業受託、組合の性質も有する無名契約であり、建物賃貸借契約ではないから、民法・借地借家法の適用はないと主張している。なお、借地借家法適用否定説は、論者によってかなりバリエーションがあるが、住友不動産vs. センチュリータワー事件の控訴審判決(判タ1020号157頁)を議論の前提とする。

4. オーナー側の主張に対する反論

(1)総論
しかし、このような見解は、従来の実務的な思考方法とはかけ離れるし、法的な予測可能性を著しく害するものである。
(2)当事者の選択した法形式に従った法律適用の重要性
ある契約がどのような法的性格を有するかは、当事者の意思によって決まる。無論、この「意思」は、単なる動機だけでは不十分であり、相手方を拘束するものであるから、そのようなものとして明確に表示されていなければならない。従って、従来の実務においては、当事者がある法形式を採用し、そのような契約書(建物賃貸借契約書)を作成した場合には、特殊な事情がない限り、当該法形式に従った法律(民法・借地借家法)が適用される。契約書の規定も、公序良俗や強行法規に反しない限り、その規定通りの効力が認められている。
(3)無名契約説が法的予測可能性を害すること
ところが、ある契約について、当事者の選択した法形式、契約条項を無視して、「無名契約」とラベリングするだけで、その法形式によれば適用されるはずの法律が適用されなくなるのでは、法的な予測可能性は全く無くなってしまう。契約を締結しようとする当事者は、「賃貸借契約」を選択すれば、契約書に明記していない部分については、民法・借地借家法が適用されると考えている。にもかかわらず、後日裁判所で「賃貸借契約ではないから民法・借地借家法の適用はない。」と判断されるのであれば、当事者は恐ろしくて契約を締結できなくなる。
(4)不動産流動化に与える影響
このような弊害は、近時急増している不動産流動化においても顕著である。流動化スキームの中で、マスターリース契約(ここでサブリースと呼んでいる契約)を締結することが良くあるが、定期借家契約を選択して借地借家法32条の適用を排除する旨合意しない限り、借地借家法32条は適用されるはずである。少なくとも当事者はそのように考えて契約締結している。しかし、無名契約説によれば、敢えて通常借家契約を選択したにもかかわらず、借地借家法32条の適用が否定されてしまうことになる。しかも、借地借家法32条だけでなく、民法や借地借家法のその他の規定についても、適用されるか否か全く不明の状態になる。
(5)マイカルCMBSとの対比
セール・アンド・リースバック形式の流動化案件では、従来の建物所有者(オリジネーター)が「賃貸借契約」に基づいて建物を賃借して賃料を支払っている。一定期間の賃料支払額が融資の返済であると認定されないために、定期借家を選択せず賃料増減額の余地を残すなど、譲渡担保と認定されないよう、細心の注意を払って契約を締結している。にもかかわらず、否定説では、無名契約であって賃料減額の余地はないから融資の返済であると認定される可能性が高くなる。また、スキーム全体についても、「売買」「信託」等の契約を選択して、その法形式に従った法律が適用されることを前提として契約書を作成しているのに、事業性の強い契約は「無名契約」だから「売買」「信託」ではないとして、当事者の全く予期していない法律効果を強制される危険がある。そのような法的な予測可能性の無い事業に誰も多額の投資をしないし、不動産を提供するオリジネーターもいない。
(6)リスクの分担について
契約によってノーリスクにすることはできない。
何れの当事者がどのリリスクにすることはできない。何れの当事者がどのリスクを負担するかが契約時に明確になっていれば十分である。契約によって特に明記されていないリスクは、当事者が選択した法形式に従って何れの当事者が負担するかが決定されなければならない。賃貸借契約を選択すれば、賃料相場の上昇によるリスクを賃借人が、賃料相場下落のリスクを賃貸人が負担するのである。

5. 「賃料保証」について

(1)問題の所在
上記のとおり、サブリースの契約書には「賃料保証」という用語が使用されているものが多い。学者やオーナー側の代理人は、「賃料保証」=賃料不減額合意を所与の前提として議論を出発させている。もっとも、借地借家法32条は強行法規であり、賃料不減額合意をしても無効とするのが通説であるから、上記のとおりさらにサブリースは賃貸借契約ではないとしている。
(2)当事者の合理的な意思
しかし、サブリースの契約書では、賃料(増)減額請求権を行使しないとか、借地借家法32条の適用が無いなどの条項が規定されているものを見たことはない。もし、本当に賃貸人が賃料減額請求権を排除しようと考えているのであれば、「賃借人は借地借家法32条に基づく賃料減額請求権を行使できない。」とか、借地借家法32条の強行法規性を考慮すれば、そもそも「賃貸借契約」を選択しないなどの提案をしているはずである。しかし、平成4年前半頃までオフィスビルの賃料相場が下落したことはなかったから、そのような条項を規定しようなどと考えたオーナーはいなかったのである。
(3)「賃料保証」とは、賃料不減額の合意を意味する用語か
無論、「『賃料保証』なる用語が既に当時から賃料減額請求権を排除する旨の用語として一般的に使用されていた」というのであれば、敢えて「賃料減額請求権を行使できない」と規定するまでもないかもしれない。しかし、「賃料保証」の用語がそのような意味で使用されたことは無い。サブリース以前から存し、現在も存する契約形態に、オーナーから建物管理や賃借人募集、賃借人との交渉、事務手続一般について委託を受ける「管理委託」が存する。委託料として賃料の一定割合(5~10%)を受託者が収受することが多いが、賃料相場の高騰期には、空室または賃料不払いが発生しても、一定額まで「賃料を保証する」特約を付す特約が多く見られた。上記事務を賃借人側が行うサブリースでは、賃貸人に一定額を支払えば自動的に空室発生やテナントによる賃料不払いのリスクを賃借人(ディベロッパー)が負うから、この点を捉えて「賃料保証」があります、と宣伝していた。このような意味で「賃料保証」の用語が使用されていた。
(4)結論
すなわち、「賃料保証」には、「空室発生やテナントの賃料不払いに限らず、一定額を支払う」旨の意味しかない。賃料不減額の意味で使用されたことなど無いのである。この点については、結果として賃料減額請求を認めなかった上記住友不動産vs.センチュリータワーの判決に記載されている。賃貸借契約において一定額を支払うことを約束しても、借地借家法32条に基づき、賃料増減額請求権を行使できることは当然である。

6. 借地借家法32条は大企業である不動産会社等の賃借人にも適用されるか

(1)適用否定説適用
否定説は、借地借家法は弱者救済の法律であるから、同法32条はサブリースに適用されないとか、賃料相場下落の際にも簡単に他の物件に移動できないことの代償として賃料減額を認めたのであるから、間接占有を当然の前提とするサブリースには適用されないなどと主張する。
(2)適用否定説に対する批判
しかし、仮に借地借家法全体が弱者救済的な色彩が強いとしても、借地借家法32条は、賃料相場上昇の際に賃料を増額する慣習法があり、裁判上も認められていたものを立法化したものである。本来、賃貸人のために立法されたものであり、公平の観点から賃借人にも同種の権利を認めたのである。決して弱者救済の規定ではない。また、借地借家法32条の立法趣旨として、サブリース紛争前にこの見解が唱えられたことはなく、立法事実としても存在しない。賃貸借という継続的な契約において、対価の調整を図るための公平の見地に基づいた規定であるから、占有形態が直接か間接かを問わないはずである。
(3)結論
借地借家法32条の賃料増額請求権は、請求者が大企業でも社会的な弱者でも、対価関係が不公平になれば行使できる。無論、不動産流動化に際してマスターリース契約を利用した場合にも、賃借人兼転貸人は社会的な弱者ではないが、定期借家を選択しかつ借地借家法32条を排除しない限り、賃料増減額請求権を行使できる。

7. まとめ

以上検討したとおり、いわゆるサブリース契約は賃貸借契約そのものであって、賃料減額請求権の存在は認められるべきである。また、上記のとおり、借地借家法32条の立法趣旨は公平にあるから、真実賃借人からの賃料減額請求が不当であるならば、減額幅で調整し(相当額)、または従前賃料は不相当になっていないとして(不相当性)32条の要件充足を否定すれば足りる。敢えて従来の実務における枠組みを否定してまで特殊な理論を採用する必要性は、全く無い。もっとも、当事者双方が想定していなかった事態が発生していること、実際には必ずしも賃借人側の関与が強い事件だけではないこと、借入金利の低下によりオーナー側は当初の予定よりも多額の利益を得ていることが多く、他方賃借人側は支払賃料よりも転貸料のほうが少ない(テナントとの賃貸借契約に賃料減額が認められることには、争いがない。)ため多額の損失を被っていることが多いこと等を考慮すると、安易に従前賃料と鑑定に基づく賃料との"間を取る"安易な解決には賛同できない。特殊な事情がなければ、裁判所は原則として、不動産鑑定に基づく賃料を「相当賃料」として認定すべきであると考える。

以上
なお、この記事は、不動産経済FAX-LINE374号において岡内が受けたインタビューの内容を再構成したものです。

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