会社の特別清算に伴う法人の金銭債権の貸倒処理
法律用語集

会社の特別清算に伴う法人の金銭債権の貸倒処理

読み方
かいしゃのとくべつせいさんにともなうほうじんのきんせんさいけんのかしだおれしょり
業務分野

1 特別清算とは

特別清算とは、解散後・清算中の株式会社について、清算の遂行に著しい支障を来すべき事情又は債務超過の疑いがある場合に、裁判所の命令により開始され、その監督の下で行われる清算手続をいう(会社法510条以下)。

2 協定と個別和解

特別清算においては、清算株式会社がその資産を換価して、協定債権者(協定債権の意義については会社法515条3項参照)に対してこれに見合った一定額の弁済を行った上で残債権額の免除を受けることによって、清算株式会社の資産、負債ともに零にして清算株式会社の清算を完了させるのが原則である。このため、清算株式会社と協定債権者との間で、清算株式会社が協定債権者に弁済すること、協定債権者は弁済を受けられなかった部分を免除することを取り決める必要がある。その方法として、協定と個別和解がある。

協定は、清算株式会社が債権者集会に対し、協定債権者の権利の変更等を内容とする協定を申し出て(会社法563条)、債権者集会において協定を可決した上で(会社法567条1項)、裁判所がこれを認可し(会社法569条)、その効力を清算株式会社及び全ての協定債権者に及ぼし(会社法571条)、清算株式会社を清算するものである。

協定債権者が少数の場合、清算株式会社と協定債権者が個別に和解をして取り決めをすることが少なくない。債権者集会を開催するより、債権者全員の同意を得る方が早いことがあるからである。明文の根拠はないが、実務上は適法と解されている。この場合の個別和解は、協定に代わるものであるから、裁判所の許可(会社法535条1項4号)により効力を生じると解されている。

3 特別清算における債権の税務上の取扱い

債務者につき特別清算の申立てがあるときは、貸倒損失が見込まれる金銭債権(個別評価金銭債権)の100分の50に相当する金額を貸倒引当金に繰り入れることが認められている(法人税法52条1項、法人税法施行令96条1項3号ニ)。

協定により切り捨てられることになった債権額は貸倒損失として処理することができる(法人税基本通達9-6-1(2))。

これに対し、個別の和解による債権放棄額については、法人税基本通達9-6-1(2)は適用されないと解されている(東京高判平成29年7月26日税務訴訟資料〔250号~〕267号13038順号〔28271198〕)。法人税基本通達9-6-1(2)が定める「特別清算に係る協定の認可の決定を経た場合」に文言上該当せず、また、債権の消滅に係る協定及び計画の内容の合理性が法令の規制及びこれに係る裁判所の審査と決定によって客観的に担保されているのに対し、個別和解に基づく債権放棄の場合はそうではないことが理由として挙げられている。

もっとも、法人税基本通達9-6-1 (4)への該当可能性までも直ちに否定されるものではない。金銭債権の貸倒損失を法人税法22条3項3号にいう「当該事業年度の損失の額」として損金算入するための判断枠組みとして、「債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情だけでなく、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれき等による経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべき」とした最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁を踏まえ、法人税基本通達9-6-1 (4)の適用の有無を検討すべきものと解されている(前掲・東京高判平成29年7月26日)。

なお、損金算入できる時期については、協定型においては、協定の認可の決定があった日の属する事業年度である(法人税基本通達9-6-1(2))。個別和解型においては、法人税基本通達9-6-1 (4)が定める「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合」の解釈・適用の問題になるものの、個別の和解契約に基づき支払を受けることにより債権放棄をした日の属する事業年度であることが多いと考えられる。

(弁護士 森田豪丈 /2022年4月19日更新)

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