特定調停手続
法律用語集

特定調停手続

読み方
とくていちょうていてつづき
業務分野

1 特定調停手続とは

2000年に施行された「特定債務者等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(特定調停法)に基づいて、支払不能に陥るおそれのある債務者等が、その負担している金銭債務について、簡易裁判所の仲裁のもと、債権者との間で利害関係の調整(弁済条件の軽減など)を図ることを目的として申し立てる特別の民事調停手続。倒産ADRの一つに位置づけられる。集団的処理を必要とする倒産処理手続として、移送や自庁処理について特則が設けられ、事件の一括処理を可能とする制度を整備している点に特色がある。

原則として調停案の成立に全債権者の個別的・積極的な同意が必要となる点で法的倒産手続と大きく異なる一方、裁判所が関与するため、私的整理と比べて、手続の透明性・債権者間の公平性について一定の期待ができる。

2 調停委員会による調停条項案の作成

申立人による調停条項案でまとまらない場合、調停委員会が自ら作成した調停条項案を提示することがある(特定調停法15条)。また、当事者が予め承諾することを条件として、調停委員会が作成した調停条項案をもって当事者間で合意が成立したとみなす制度が置かれている(特定調停法16条、17条)。

3 17条決定

調停が成立する見込みがない場合において、相当であると認めるときは、裁判所は、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる(いわゆる17条決定、民事調停法17条)。裁判所から17条決定がなされ、告知日から2週間以内に異議の申立てがないときは、当該決定は裁判上の和解と同一の効力を有する(民事調停法18条5項)。

17条決定は、当事者において意見が概ねまとまっていながら細部において一致できない場合や、特に金融債権者が積極的には同意しないものの裁判所案が示されれば反対しない意向を示している場合等に利用されている。

4 民事執行の停止

特定調停手続の円滑な進行を妨げるおそれがある等の場合には、裁判所が、特定調停手続が終了するまでの間、債権者の民事執行を停止する旨の決定をすることができる(民事調停法12条、民事調停規則5条、特定調停法7条)。

5 日弁連の「特定調停スキーム利用の手引」

特定調停は、当初は多重債務や住宅ローン破綻した個人の利用が多く、事業者の事業再生ではそれほど利用されなかったが、日本弁護士連合会(日弁連)は、「中小企業等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(金融円滑化法)が終了したことを受けて、中小規模の事業者の抜本的な再生スキームとして特定調停を利用する場面を想定して、2013年12月、「金融円滑化法終了への対応策としての特定調停スキーム利用の手引」(通称「手引1」)を策定した(その後、2014年に改訂。)。

また、2013年12月に、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が事務局となって、経営者保証を提供せず融資を受ける際や保証債務の整理の際の「中小企業・経営者・金融機関共通の自主的なルール」として「経営者保証に関するガイドライン」が策定・公表された。これを受けて、日弁連は、保証債務のみを整理する「単独型」について、簡易裁判所の特定調停手続を利用する方法について、2014年12月、「経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の手法としての特定調停スキーム利用の手引」(通称「手引2」)を策定した。

さらに、2017年1月には、事業者の早期の任意の廃業を支援するスキームとして特定調停を利用する場面を想定して、日弁連は、「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」(通称「手引3」)を策定した(その後、2018年に改訂。)。

これら日弁連の特定調停スキーム利用の手引が公表されてから、小規模な事業者の債務整理に特定調停を利用することや、他の私的整理手続において一部の債権者から事業再生計画案について同意が得られない場合に特定調停を利用することが増えているといわれている。

6 東京地方裁判所における新たな運用

東京地方裁判所では、2020年4月1日から、東京地方裁判所(本庁)における企業の私的整理に関する特定調停につき、新たな運用を開始した。新運用においては、事業価値の劣化の防止の観点から迅速に手続を進行させるとともに、従来の運用よりも予納金の額を低廉とすることによってその利用を促進するため、原則として、事業再生ADR中小企業活性化協議会(旧・支援協)等の準則型私的整理手続から移行した案件を特定調停の対象とする。主な類型としては、準則型私的整理手続において事業再生に係る計画案が作成され、ほとんどの債権者が当該計画案に賛成をしたものの、一部の債権者が同意しなかったという案件を想定している。新運用においては、企業の経営者個人についても、同時に申立人となる債務者とすることができ、基本的には「経営者保証ガイドライン」に則って特定調停を進めることになる。新運用が対象とする事案では既に私的整理手続において資産評定(事業価値の算定)が行われ、又はスポンサーが選定されていることを前提としており、調停委員会(又は裁判官)が3回程度の期日で迅速に調停の成立を目指すことを想定している。

(弁護士 森田豪丈 /2022年4月6日更新)

この業務分野を取り扱う弁護士

関連するニュース

関連する論文・著書・ニューズレター・セミナー/講演等