危険負担
- 読み方
- きけんふたん
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1 危険負担とは
危険負担とは、売買等の双務契約が成立した後に、債務者の責めに帰することができない事由で目的物が滅失・毀損等してしまったことにより履行不能(後発的履行不能)となった場合において、そのリスクを当事者のいずれが負担するか、という問題のことをいいます。すなわち、一方の債務(目的物を引き渡す債務)が履行不能により消滅した場合に、もう一方の反対債務(売買代金債務)も消滅するか、反対債務が消滅することなく存続するか、という問題です。
そして、一方の債務が履行不能により消滅した場合に反対債務も同時に消滅する(目的物を引き渡す債務が消滅すれば売買代金を支払う債務も消滅する)ことでリスクを(消滅した債務の)債務者に負担させることを債務者主義といいます。これに対し、一方の債務が消滅してもなお反対債務を存続させる(目的物を引き渡す債務が消滅しても売買代金を支払う債務が存続する)ことでリスクを(消滅した債務の)債権者に負担させることを債権者主義といいます。
2 改正前民法における危険負担の取扱い
改正前民法は、危険負担について債務者主義を原則としながら(同法536条1項)、特定物に関する物権の設定又は移転を目的とする双務契約(不動産売買契約等)については例外的に債権者主義を採っていました(同法534条1項)。もっとも、改正前民法534条によれば、例えば、建物の売買契約の締結直後にその建物が地震によって滅失した場合にも買主は代金を支払う義務を負うことになりますが、この結論は目的物の引渡しも受けず、自己の支配下に置いてもいない債権者に過大なリスクを負わせるものであって不当であるとして、従来から批判が強く、改正前民法下における不動産取引の実務においても、危険負担について契約上の特約によって民法の債権者主義と異なった定めである債務者主義が規定されることが一般的でした。
3 債権者主義を定めた規定の廃止
改正民法では、例外的に債権者主義を定めた規定(改正前民法534条、535条1項・2項)を削除しました。
ただし、改正民法においては、売主が買主に目的物を引き渡した場合には、それ以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によって生じた目的物の滅失又は損傷については、買主は、これを理由とする担保責任の追及(履行の追完の請求、代金減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除)をすることができないとしました(改正民法567条1項前段)。改正前民法では、この点についての明文の規定はありませんでした。
4 危険負担の効果の見直し
危険負担制度を単純に廃止すると、債権者は、改正前民法下では反対給付債務が当然に消滅していた場面においても、解除の意思表示をしなければならず(改正民法では、債務者に帰責事由がなくとも、債権者は契約の解除をすることができるとしています〔改正民法541条ないし543条〕。)、実務的な負担を増加させるおそれがあることから、改正民法においては、危険負担の効果を、反対給付債務の消滅から反対給付債務の履行拒絶権の付与に改めました(改正民法536条1項)。
(弁護士 森田豪丈 /2022年5月11日更新)
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