抗CD20抗体発明の権利帰属事件
判例紹介

抗CD20抗体発明の権利帰属事件

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悪性リンパ腫に対する効能が期待される抗体医薬を開発するバイオベンチャー企業(バイオメディクス株式会社)がその有効成分である抗CD20抗体の発明について特許出願をしたのに対し、大阪大学が発明について特許を受ける権利の5分の4の持分の確認の訴えを起こし、ベンチャー企業も自らの100%の持分の確認を求めて反訴を起こした事件。大阪地裁は大阪大学に3分の2の持分を認める判決を行なった。問題の抗体は、ヒトのリンパ腫細胞の表面に発現するタンパク質CD20と特異的に結合する抗CD20抗体で、人工的に作製した抗CD20抗体をリンパ腫患者に投与して、CD20との反応でリンパ腫細胞を破壊することにより治療効果を得る。抗CD20抗体を人工的に作製する方法は、まずヒトのCD20をマウスに投与して、マウスの抗CD20抗体を取得して、有望な抗体が得られた場合は、マウス由来抗CD20抗体の抗原特異性のある部分のアミノ酸配列を用いて、ヒトへの投与に適した抗体のアミノ酸配列を設計し、遺伝子組み換え技術でヒト化抗体を作製する。この事件では、きわめて有効な治療効果を期待できるヒト化1791抗体が得られたことに争いはない。判決では、バイオベンチャー企業が委託した外部の抗体作製受託会社の研究者が1K1791マウス由来抗体をマウスの免疫によって取得した事実と、同じくバイオベンチャー企業が委託したアメリカの研究者によってヒト化アミノ酸配列の設計がなされた事実を認め、この2名の研究者が発明者であり、その研究成果の法律的権利を委託者であるバイオベンチャー企業が有していることも認めた。判決は、さらに、バイオベンチャー企業と共同研究契約をした大阪大学の研究者も、抗CD20抗体の発明に寄与したと認定した。判決の認める大阪大学の研究者の共同発明者としての寄与は、19種取得されたマウス由来抗体の中から、8種の抗体を選んでキメラ化し、2種の抗体を選んでヒト化した選抜行為において、大阪大学の研究者が創造的な貢献をしたというものであった。裁判所が共同発明の成否(共同発明か、それとも一方当事者の単独の寄与か)を判断することが求められた事件であるが、技術的に的確な判断がなされたか疑問のある判決である。

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